ラノベ&ボイスドラマ風なゲーム制作入門~企画編~
<前巻までのあらすじ>
高校のゲーム研究部に所属する主人公の前に突如現れた謎の美少年、彼はなんと未来人で「30年後の未来でプロのゲーム作家をやっている」らしい。
彼は左手で自分の左目を隠しながら言った。
「ワシの名は、漆黒の紅き白龍、ラグナヴァス・ディストランド。星魂の新世界、エル・ダールを継ぐ者じゃ」と――。
最初は徹底した中二病だと感心していた主人公も、保健室でのあれこれや、
雪山で遭難した時のなんやかんやで、実は美少年ではなく”美少女”だったことが判明。
次第に彼の話を信じるようになり、「師匠」と呼ぶようになるが――。
<第六章・核となる企画はメモしない>
「ちょ、ちょっと待ってください師匠。 ”遊んでもらう人や状況をイメージする” ということは分かりました。けど、”アイデアをメモしない”というのは? メモしないと忘れちゃいますよね?」
私は師匠、と言っても16歳くらいに見える自称316歳の美少年――実は美少女だったのだがそれは二人だけの秘密――から目線を外しながら、そう訊ねた。
師匠はどこか遠く、ここではない場所を見ながら答える。
「忘れる企画は必要ない。忘れる、ということは大したネタではなかったということじゃ」
「なるほど…、脳の機能まで利用して企画を作るなんて――、流石です師匠!」
「うむ。それにな、書くことで”企画が確定してしまう”ではないか」
「え? 企画が、確定しては、まずいのでしょうか?」
「まずい、大いにまずい。何故ならば、それ以上の妄想発展が起こらなくなる。最初の企画、つまり核となるアイデアが完璧であれば良いが、もし仮に70点のアイデアだったとして、そこで確定してしまうと、70点の企画でゲームを作ることになってしまう」
「おお。確かに、それは大惨事ですね、流石師匠! つまり、脳内で揉んで揉んで揉みまくって100点の企画になってから企画書を書くべしと」
「そうじゃ、それこそが、”創る”に値する面白いアイデアなのじゃ。ところで貴様、今何をしておる?」
「え、師匠のお言葉をメモして――あっ! すみません師匠」
パタン。と、私は開いていたノートPCを閉じた。そして師匠の顔を見る。もちろん師匠の眼は直接見ない。
師匠の眼は”邪眼”、見た者は呪われる――という理由ではもちろんなく、武道でいう”目付け”。相手の一か所を見るのではなく全体を見る。
相手の心の動き、感情や違和感を捉え、言葉に含まれていない何かを読み取ることができる。
「うむ。貴様は愚かじゃが――、少しはましな愚者じゃな」
「あ、えと、恐縮です」
私は質問を続ける。
「それで師匠、超面白くて直ぐにでも作りたいゲーム企画ができたとして、その後は、師匠の場合、何から作り始めますか?」
「ふむ。そうじゃな、ワシの場合、その超面白い企画――、さっきも言ったがこの段階ではゲームの核となるアイデアのことじゃが、そのアイデアに名前を付ける」
「アイデアに名前を!? それは初めて聞きました、どういうことでしょう?」
「なに、誰もがやっとることじゃよ。ここで付ける名前とは即ち、ゲームのタイトルじゃ。この名付けにより、ゲームに最初の命が宿る。ゲーム誕生の瞬間じゃ」
「おおおおお、ただタイトルを考えただけなのに、何か凄いことをした気になりますね、流石師匠!」
「ふん、ただ名付けるだけではないぞ。膨らませたゲームのアイデア、つまり世界設定やゲームシステムを踏まえ、最も相応しい名前を付けねばならぬ。ここで確定させたゲームの核を元に、数か月、ゲームの規模によっては何年も同じ作品を作ることになるのじゃからな」
「とてつもなく重要な決定を、最初に行うわけですね」
「うむ、そうじゃ。そして、核が固まれば以降の決断、つまり”何を入れて何を削るか”を決めやすくなる」
「何を入れて、何を削るか……」
ここで師匠はジュースを一口飲んだ。
師匠が自分で未来から持ってきたらしいミドリムシ入りのジュースを。
因みに食用ミドリムシ入りのジュースはユーグレナと呼ばれ、現代でも既に売られている。未来ではもっとメジャーになっているらしい。
「あ、師匠、今更ですけど。核となるアイデアというのは、どのくらいのものなんでしょう。その、規模感的な意味で」
「ゲームによるが、そうじゃな、ワシの代表作を例に話してやろう」
「師匠の代表作! 未来で師匠が作ったゲームですよね、そっちも気になります、是非」
「うむ。そのゲームの名は、”ヴァジアルサーガ愚民化戦略”。愚民を洗脳して戦場へ送り込み、領土を拡大しつつ、有能な武将に子作りさせて、より良い遺伝子を持った武将を作ったりする国盗り戦略シミュレーションゲームじゃ」
「うお、なんか、ヤバそうなゲームですね師匠!」
「当然じゃ。 で、核の話じゃが、このゲームの場合、まずさっき言った愚民洗脳・子作り・国盗りSLGの部分がそうじゃ。世界設定とゲームシステムの両方が絡み合って核になっておる」
「えっと、どちらか片方だけでは核にならないということでしょうか?」
「ならないわけではない。これもゲームによるのだが、基本的に世界設定とゲームシステムは車の両輪だと考えておる。どちらか片方だけを先に作りこんでしまうと、もう片方を繋げる時に苦労するのじゃ。まさに”後からとって付けたような感じ”になってしまう」
「世界設定とゲームシステムは両輪……」
「うむ。この両輪を絡ませながら企画を練りこむことが、善いゲームの核を作る為の秘訣だとワシは考えておる」
「分かりました師匠、世界とシステムの絡みが重要、脳に刻んでおきます」
「さて。核ができ、タイトルも決まった。貴様なら次に何を作る?」
「えーと私の場合は、最初から順番に作ることが多いので、オープニングのストーリーを考えるか、タイトル画面を作ります」
「ほう。具体的にするべきことが分かっていることは良いことじゃ。何を作るかは好き好きじゃが、ワシも最初から作ることにしておる。大抵はロゴじゃな」
「ロゴ、というとタイトルロゴですね、確かにこれがないとタイトル画面が作れない」
「うむ、核を踏まえて、その世界観に合ったロゴを描きながら更にゲームのイメージを広げていく。そのロゴから更にタイトル画面が生まれる。このようにして全ての素材を核から派生させていくことでゲームの世界を構築していくわけじゃ」
「ロゴを美術部の知り合いに頼むこともあるのですが、この場合は?」
「作り手の人数が増えても同じじゃ、核を踏まえて発注し、自身はそれ以外の部分を作っていけば良い」
「おおー、師匠、なんかだいぶ分かってきました! 核を中心に世界とシステムを練りこみながら徐々に輪を拡大していく感じですね。そしてメモは取らない」
「いや、ゲームを作り始めてからはむしろ積極的にメモを残していくのじゃ」
「え!? 師匠、言ってることが矛盾してますよ?」
「黙れ小童(こわっぱ)! メモを取らぬのは核を作るまでの話じゃ。確定させてからは、気付いたこと、これから作る予定のアイデアをどんどんメモしていく。もちろん最初の核に沿ったアイデアをじゃ。そしてそれを優先度順に上から並べ替えておく」
「やるべきことをメモし、優先順位を付けて並べ替える――」
「さよう。あとは上から順番に作業を進めれば、いつかゲームは完成する」
「作っても作ってもどんどん新しいアイデアが生まれてきたら?」
「当然、どんどんメモを追加し、どんどん作っていく。むしろそれが自然な流れじゃ。最初は数行から始まり、ゲームが完成する頃には”OK”や”完了”の印を付けたメモが下側に数百、又は数千行積まれた状態になる」
「作り終わったアイデアも下に残しておくんですね」
「ワシの場合はな。ああ、それと、作る前に”本当にこのアイデアは必要か”ということを核を踏まえて検証する必要はあるぞ。――それに、重要なアイデアはやはり直ぐに書くのではなく、脳内で揉んでから出力した方が良い」
ここで師匠はまたミドリムシのジュースを飲んだ。
それをじっと見ていたら、師匠がそのジュースを私に差し出してきた。
「ほれ。そんなに気になるなら味見してみるか?」
「あ、はい、では少しだけ――」
ゴキュ。……うーん、特にミドリムシっぽい味はしない。ミドリムシがどんな味なのかは知らないけど。
「普通のフルーツジュースみたいですね」
「うむ、ミドリムシは味付け次第じゃ。ゲームも同じ。元のアイデアにどんな味を付けていくかで、ゲームは様々な味に変化する」
「師匠、上手いこと言った気になってますね?」
「ば、ばかもの。事実を言ったまでだ」
と言いつつも照れてるように見える師匠。ちょっとかわいい。
「さて、このまま味付けをしていけば、いつかはゲームが完成する。が、実は核や味付けよりももっと重要なことがある」
「核や味付けよりも重要なこと、ですか? うーん、他にやるべきことは――、あ、バランス調整?」
「ほほう。愚民の分際でよくわかったな。誉めてやろう」
「はっ! ありがたき幸せ! で、師匠、バランス調整ってゲームの企画よりも重要なんでしょうか?」
「超重要じゃ。如何に素晴らしい企画でもバランスが最悪ならそれはクソゲーじゃ。逆にクソな企画であってもバランスが神なら、それは面白いゲームとなる」
「なるほど、です」
「まあ当然、核が優れているに越したことはないがな。ミドリムシ自体が旨ければ、味付けもバランス調整も楽になる」
「世界設定とシステムを合わせてよく揉んだ核と、それを活かす為の味付け。そしてそれらのバランス調整、ですね。 わかりました師匠! 今日もご教授ありがとうございます!」
「うむ、まあワシにもメリットはあるでな」
「え? 何か仰いました?」
「いや、何でもない。次は”未来のプログラミング技法”について教えてやろう」
この時の師匠の笑みが何を意味するのか、今の私には知る由もなかった――
To be continued...(第七章へ続く) ※続きはこちら
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